の学校へ行く気も無くなり、そんならどうするのか、となると眼の先がまっくらで、家でただ遊んでいるのもお父さんに申しわけがなく、またお母さんに対しても、ていさいの悪いこと並たいていではなく、君には浪人の経験が無いからわからないかも知れないが、あれは全くつらい地獄だ。僕はあの頃、ただもうやたらに畑の草むしりばかりやっていた。そんな、お百姓の真似《まね》をする事で、わずかにお体裁を取りつくろっていた次第なのだ。ご承知のように、僕の家の裏には百坪ほどの畑がある。これは、ずっと前から、どうしたわけか僕の名前で登記されているらしいのだ。そのせいばかりでもないけれども、僕はこの畑の中に一歩足を踏みいれると、周囲の圧迫からちょっとのがれたような気楽さを覚えるのだ。この一、二年、僕はこの畑の主任みたいなものになってしまっていた。草をむしり、また、からだにさわらぬ程度で、土を打ちかえし、トマトに添木を作ってやったり、まあ、こんな事でも少しは食料増産のお手伝いにはなるだろうと、その日その日をごまかして生きていたのだけれども、けれども、君、どうしてもごまかし切れぬ一塊の黒雲のような不安が胸の奥底にこびりついてい
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