知っているんだ。僕もあの人の詩のファンだった。君だって、名前くらいは知っているだろう。」
「そりゃ、知っている。」
 僕は、どうも詩というものは苦手だけれども、それでも、大月花宵の姫百合《ひめゆり》の詩や、鴎《かもめ》の詩は、いまでも暗誦《あんしょう》できるくらいによく知っている。その詩の作者と僕は、この数箇月ベッドを並べて寝ていたとは、にわかに信じられぬ事であった。僕には詩というものがちっともわからぬけれども、君も御存じのとおり、天才の詩人というものを尊敬する事に於《お》いては、敢《あ》えて人後に落ちないつもりだ。
「あのひとが、ねえ。」しばらくは、感無量であった。
「いや、はっきりした事はわからんよ。」と君は少しうろたえて、「さっき、ちらと見ただけなんだから。」
 とにかくそれでは、もっと、こまかに観察してみようという事になり、そろそろ日曜慰安放送の時間もせまって来ていたし、僕たちは階下の「桜の間」に帰った。越後は寝ていた。僕には、あの時ほど越後が立派に見えた事は無い。それこそ、まさに、眠れる獅子のように見えた。僕たちは顔を見合せ、ひそかに首肯《うなず》き、二人一緒に思わず深い溜息
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