た。大鯛《おおだい》だって、ばかには出来ない。
 どうだい、君。僕は、あらためて君に、当道場の訪問をすすめる。ここには、尊敬するに足る女性がひとりいる。これは、僕のものでもなければ、君のものでもない。これは、日本のいま世界に誇り得る唯一《ゆいいつ》の宝だ。なんていうと少し大袈裟《おおげさ》なほめ方になってしまって、われながら閉口だが、とにかく、色気無しに親愛の情を抱かせる若い女は少いものではあるまいか。君も、もう竹さんに対しては、色気なんてそんなものは持っていない筈である。親愛の気持だけだろうと思う。ここに、僕たち新しい男の勝利がある。男女の間の、信頼と親愛だけの交友は、僕たちにでなければわからない。所謂《いわゆる》あたらしい男だけが味《あじわ》い得るところの天与の美果である。この清潔の醍醐味《だいごみ》が欲しかったら、若き詩人よ、すべからく当道場を御訪問あれ。
 もっとも君は、既に、君の周囲に於いて、さらにすぐれた清潔の美果を味っているかも知れないが。
  十月二十日

   花宵《かしょう》先生


     1

 昨日の御訪問、なんとも嬉《うれ》しく存じました。その折には、また
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