いしたものだ。僕もあんな、正しい愛情の人になるつもりだ。僕は一日一日高く飛ぶ。周囲の空気が次第に冷く澄んで来る。
男児|畢生《ひっせい》危機一髪とやら。あたらしい男は、つねに危所に遊んで、そうして身軽く、くぐり抜け、すり抜けて飛んで行く。
こうして考えてみると、秋もまた、わるくないようだ。少し肌寒《はだざむ》くて、いい気持。
マア坊の夢は悪い夢で、早く忘れてしまいたいが、竹さんの夢は、もしこれが夢であったら、永遠に醒《さ》めずにいてくれるといい。
のろけなんかじゃあ、ないんだよ。
十月七日
固パン
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拝啓。ひどい嵐《あらし》だったね。野分《のわき》というものなのかしら。これでは、アメリカの進駐軍もおどろいているだろう。E市にも、四、五百人来ているそうだが、まだこの辺には、いちども現われないようだ。矢鱈《やたら》におびえて、もの笑いになるな、と場長からの訓辞もあったし、この道場の人たちは、割合いに泰然としている。ただひとり、助手のキントトさんだけ、ちょっとしょんぼりしていて、皆にからかわれている。キントトさんは、二、三日前、雨の中を用事でE市に行っ
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