死んだよ。ああ、ゐなくなつたのだ。どこを搜してもゐないよ。泣くな。」
「はい。」
「百圓あげよう。これで綺麗な着物と帶とを買へば、きつと佐野次郎のことを忘れる。水は器《うつは》にしたがふものだ。おい、おい、佐竹。今晩だけ、ふたりで仲よく遊ばう。僕がいいところへ案内してやる。日本でいちばん好いところだ。――かうしてお互ひに生きてゐるといふのは、なんだか、なつかしいことでもあるな。」
「人は誰でもみんな死ぬさ。」



底本:「太宰治全集2」筑摩書房
   1998(平成10)年5月25日初版第1刷発行
初出:「文藝春秋」
   1935(昭和10)年10月
入力:土屋隆
校正:増山一光
2006年12月30日作成
青空文庫作成フアイル:
このフアイルは、インターネツトの図書館、青空文庫(http://www.aozora.gr.jp/)で作られました。入力、校正、制作にあたつたのは、ボランテイアの皆さんです。
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