キット墓地ガアリマス。
路問エバ、オンナ唖ナリ、枯野原。
よく意味のわからぬことが、いろいろ書いてある。何かのメモのつもりであろうが、僕自身にも書いた動機が、よくわからぬ。
窓外、庭ノ黒土ヲバサバサ這《は》イズリマワッテイル醜キ秋ノ蝶ヲ見ル。並ハズレテ、タクマシキガ故ニ、死ナズ在リヌル。決シテ、ハカナキ態《てい》ニハ非ズ。と書かれてある。
これを書きこんだときは、私は大へん苦しかった。いつ書きこんだか、私は決して忘れない。けれども、今は言わない。
捨テラレタ海。と書かれてある。
秋の海水浴場に行ってみたことがありますか。なぎさに破れた絵日傘が打ち寄せられ、歓楽の跡、日の丸の提灯《ちょうちん》も捨てられ、かんざし、紙屑、レコオドの破片、牛乳の空瓶、海は薄赤く濁って、どたりどたりと浪打っていた。
緒方サンニハ、子供サンガアッタネ。
秋ニナルト、肌ガカワイテ、ナツカシイワネ。
飛行機ハ、秋ガ一バンイイノデスヨ。
これもなんだか意味がよくわからぬが、秋の会話を盗み聞きして、そのまま書きとめて置いたものらしい。
また、こんなのも、ある。
芸術家ハ、イツモ、弱者ノ友デアッタ
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