っと、ひどかったですものね。それで、あのひとは? どうしたのです。まだ、ここにいるようですね。」
「女中さんがわりにいてもらう事にしました。どうして、なかなかいい子ですよ。おかげで私も大助かりでございます。いま時あんな子は、とても見つかりませんですからねえ。」
「なあんだ。それじゃお母さんは、女中を捜しに上野まで行って来たようなものだ。」
「いいえ、そんな事。」とお母さんは笑いながら打消して、「私だって、あれにいい画をかかせたいし、なるべくなら姿のいいひとを選んで来たいと思って行ったのですが、なんだか、あそこの家で大勢のならんで坐っている中で、あのひとだけ、ひとり目立っていけないのですものね。つい不憫《ふびん》になって、身の上を聞きましたら、あなた、東京へつい先日出て来たばかりで、人からモデルはお金になると聞いて、こうしてここに坐っているというんでしょう? あぶない話ですものねえ。房州《ぼうしゅう》の漁師の娘ですって。私は、せがれの画がしくじっても、この娘さんをしくじらせたくないと思いました。私だって、知っていますよ。あの娘さんじゃ、画になりません。でも、せがれには、またこの次という事
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