》にある、あの、「誰でもよい」と乳母《うば》に打ち明ける恋いわずらいの令嬢も、この数個のほうの部類にいれて差《さ》し支《つか》えなかろう。
 太宰もイヤにげびて来たな、と高尚な読者は怒ったかも知れないが、私だってこんな事を平気で書いているのではない。甚《はなは》だ不愉快な気持で、それでも我慢してこうして書いているのである。
 だから私は、はじめから言ってある。
 恋愛とは何か。
 曰《いわ》く、「それは非常に恥かしいものである」と。
 その実態が、かくの如きものである以上、とてもそれは恥かしくて、口に出しては言えない言葉であるべき筈なのに、「恋愛」と臆《おく》するところ無くはっきりと発音して、きょとんとしている文化女史がその辺にもいたようであった。ましてや「恋愛至上主義」など、まあなんという破天荒《はてんこう》、なんというグロテスク。「恋愛は神聖なり」なんて飛んでも無い事を言い出して居直ろうとして、まあ、なんという図々《ずうずう》しさ。「神聖」だなんて、もったいない。口が腐りますよ。まあ、どこを押せばそんな音《ね》が出るのでしょう。色気違いじゃないかしら。とても、とても、あんな事が、神
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