のけ》と金と真珠と価《あたい》たかき衣もては飾らず、善き業《わざ》をもて飾とせん事を。これ神を敬《うやま》わんと公言する女に適《かな》える事なり。女は凡《すべ》てのこと従順にして静かに道を学ぶべし。われ、女の、教うる事と、男の上に権を執る事を許さず、ただ静かにすべし。それアダムは前に造られ、エバは後に造られたり。アダムは惑わされず、女は惑わされて罪に陥りたるなり。されど女もし慎みて信仰と愛と潔きとに居らば、子を生む事によりて救わるべし。――
まずこれでよし、と長兄は、思わず莞爾《かんじ》と笑った。弟妹たちへの、よき戒しめにもなるであろう。このパウロの句でも無かった事には、僕の論旨は、しどろもどろで甘ったるく、甚《はなは》だ月並みで、弟妹たちの嘲笑の種にせられたかもわからない。危いところであった。パウロに感謝だ、と長兄は九死に一生を得た思いのようであった。長兄は、いつも弟妹たちへの教訓という事を忘れない。それゆえ、まじめになってしまって、物語も軽くはずまず、必ずお説教の口調になってしまう。長兄には、やはり長兄としての苦しさがあるものだ。いつも、真面目でいなければならぬ。弟妹たちと、ふざ
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