く秋の草花である。魔法の祭壇から降りて、淋しく笑った。品位。以前に無かった、しとやかな品位が、その身にそなわって来ているのだ。王子は、その気高い女王さまに思わず軽くお辞儀をした。
「不思議な事もあるものだ。」と魔法使いの老婆は、首をかしげて呟《つぶや》いた。「こんな筈ではなかった。蝦蟇《がま》のような顔の娘が、釜の中から這って出て来るものとばかり思っていたが、どうもこれは、わしの魔法の力より、もっと強い力のものが、じゃまをしたのに違いない。わしは負けた。もう、魔法も、いやになりました。森へ帰って、あたりまえの、つまらぬ婆として余生を送ろう。世の中には、わしにわからぬ事もあるわい。」そう言って、魔法の祭壇をどんと蹴飛ばし、煖炉《だんろ》にくべて燃やしてしまった。祭壇の諸道具は、それから七日七晩、蒼《あお》い火を挙げて燃えつづけていたという。老婆は、森へ帰り、ふつうの、おとなしい婆さんとして静かに余生を送ったのである。
これを要するに、王子の愛の力が、老婆の魔法の力に打ち勝ったという事になるのであるが、小生の観察に依れば、二人の真の結婚生活は、いよいよこれから、はじまるもののようである。
前へ
次へ
全79ページ中72ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
太宰 治 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング