し、間髪をいれずドロップを口中に投げ込み、ばりばり噛み砕いて次は又、チョコレート、瞬時にしてドロップ、飢餓の魔物の如くむさぼり食うのである。朝食の時、胃腑を軽快になさんがため、特にパンと牛乳だけですませて置いた事も、これでは、なんにもならない。この次女は、もともと、よほどの大食いなのである。上品ぶってパンと牛乳で軽くすませてはみたが、それでは足りない。とても、足りるものではない。すなわち、書斎に引き籠《こも》り、人目を避けてたちまち大食いの本性を発揮したというわけなのである。とかく、いつわりの多い子である。チョコレート二十、ドロップ十個を嚥下し、けろりとしてトラビヤタの鼻唄をはじめた。唄いながら、原稿用紙の塵《ちり》を吹き払い、Gペンにたっぷりインクを含ませて、だらだらと書きはじめた。頗《すこぶ》る態度が悪いのである。
――あきらめを知らぬ、本能的な女性は、つねに悲劇を起します。という初枝(長女の名)女史の暗示も、ここに於いて多少の混乱に逢着したようでございます。ラプンツェルは魔の森に生れ、蛙《かえる》の焼串や毒茸《どくきのこ》などを食べて成長し、老婆の盲目的な愛撫の中でわがまま一ぱ
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