森の小鳥たちは、一斉に奇妙な歌をうたいはじめました。ラプンツェルは泣きながらも、その歌を小耳にはさみ、ふっと素張らしい霊感に打たれました。ラプンツェルは、自分の美しい髪の毛を、二まき三まき左の手に捲きつけて、右の手に鋏《はさみ》を握りました。もう今では、ラプンツェルの美事な黄金の髪の毛は床にとどくほど長く伸びていたのです。じょきり、じょきり、惜しげも無く切って、それから髪の毛を結び合せ、長い一本の綱を作りました。それは太陽《ひ》のもとで最も美しい綱でした。窓の縁にその端を固く結《ゆわ》えて、自分はその美しい金《きん》の綱を伝って、するする下へ降りて行きました。
「ラプンツェル。」王子は小声で呟いて、ただ、うっとりと見惚《みと》れていました。
地上に降り立ったラプンツェルは、急に気弱くなって、何も言えず、ただそっと王子の手の上に、自分の白い手をかさねました。
「ラプンツェル、こんどは私が君を助ける番だ。いや一生、君を助けさせておくれ。」王子は、もはや二十歳です。とても、たのもしげに見えました。ラプンツェルは、幽《かす》かに笑って首肯《うなず》きました。
二人は、森を抜け出し、婆さん
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