ていて、それに鉄の太い鎖がつながれていました。「こいつも、しっかり鎖でつないで置かないと、あたし達のところから逃げ出してしまうのだよ。どうしてみんな、あたし達のところに、いつかないのだろう。どうでもいいや。あたしは毎晩、ナイフでもって、このベエの頸をくすぐってやるんだ。するとこいつは、とてもこわがって、じたばたするんだよ。」そう言いながらラプンツェルは壁の裂け目からぴかぴか光る長いナイフを取り出して、それでもって鹿の頸をなで廻しました。可哀そうに、鹿は、せつながって身をくねらせ、油汗を流しました。ラプンツェルは、その様を見て大声で笑いました。
「君は寝る時も、そのナイフを傍に置いとくのかね?」と王子は少しこわくなって、そっと聞いてみました。
「そうさ。いつだってナイフを抱いて寝るんだよ。」とラプンツェルは平気な顔で答えました。「何が起るかわからないもの。それはいいから、さあもう寝よう。お前が、どうしてこの森へ迷い込んだか、それをこれから聞かせておくれ。」ふたりは藁の上に並んで寝ました。王子は、きょう森へ迷い込むまでの事の次第を、どもりどもり申しました。
「お前は、その家来たちとわかれて
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