。あいてててて。」
「ありがたうございます。気をつけませう。ところで、どうしませう、お薬は。御深切な忠告を聞かしていただいたお礼として、お薬代は頂戴いたしません。とにかく、その背中の火傷に塗つてあげませう。ちやうど折よく私が来合せたから、よかつたやうなものの、さうでもなかつたら、あなたはもう命を落すやうな事になつたかも知れないのです。これも何かのお導きでせう。縁ですね。」
「縁かも知れねえ。」と狸は低く呻くやうに言ひ、「ただなら塗つてもらはうか。おれもこのごろは貧乏でな、どうも、女に惚れると金がかかつていけねえ。ついでにその膏薬を一滴おれの手のひらに載せて見せてくれねえか。」
「どうなさるのです。」兎は、不安さうな顔になつた。
「いや、はあ、なんでもねえ。ただ、ちよつと見たいんだよ。どんな色合ひのものだかな。」
「色は別に他の膏薬とかはつてもゐませんよ。こんなものですが。」とほんの少量を、狸の差出す手のひらに載せてやる。
狸は素早くそれを顔に塗らうとしたので兎は驚き、そんな事でこの薬の正体が暴露してはかなはぬと、狸の手を遮り、
「あ、それはいけません。顔に塗るには、その薬は少し強すぎ
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