いろの種類がある。淡水に住むものと、鹹水に住むものとは、おのづからその形状も異つてゐるやうだ。弁天様の池畔などで、ぐつたり寝そべつて甲羅を干してゐるのは、あれは、いしがめとでもいふのであらうか、絵本には時々、浦島さんが、あの石亀の背に乗つて小手をかざし、はるか竜宮を眺めてゐる絵があるやうだが、あんな亀は、海へ這入つたとたんに鹹水にむせて頓死するだらう。しかし、お祝言の時などの島台の、れいの蓬莱山、尉姥の身辺に鶴と一緒に侍つて、鶴は千年、亀は万年とか言はれて目出度がられてゐるのは、どうやらこの石亀のやうで、すつぽん、たいまいなどのゐる島台はあまり見かけられない。それゆゑ、絵本の画伯もつい、(蓬莱も竜宮も、同じ様な場所なんだから)浦島さんの案内役も、この石亀に違ひないと思ひ込むのも無理のない事である。しかしどうも、あの爪の生えたぶざいくな手で水を掻き、海底深くもぐつて行くのは、不自然のやうに思はれる。ここはどうしても、たいまいの手のやうな広い鰭状の手で悠々と水を掻きわけてもらはなくてはならぬところだ。しかしまた、いや決して物識り振るわけではないが、ここにもう一つ困つた問題がある。たいまいの
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