和の情を抱いてゐるのであるから、何の恐れるところもなく、円陣のまんなかに飛び込んで、お爺さんご自慢の阿波踊りを踊つて、
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むすめ島田で年寄りやかつら[#「かつら」に傍点]ぢや
赤い襷に迷ふも無理やない
嫁も笠きて行かぬか来い来い
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 とかいふ阿波の俗謡をいい声で歌ふ。鬼ども、喜んだのなんの、キヤツキヤツケタケタと奇妙な声を発し、よだれやら涙やらを流して笑ひころげる。お爺さんは調子に乗つて、
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大谷通れば石ばかり
笹山通れば笹ばかり
[#ここで字下げ終わり]
 とさらに一段と声をはり上げて歌ひつづけ、いよいよ軽妙に踊り抜く。
[#ここから2字下げ、ゴシック体]
オニドモ タイソウ ヨロコンデ
ツキヨニヤ カナラズ ヤツテキテ
ヲドリ ヲドツテ ミセトクレ
ソノ ヤクソクノ オシルシニ
ダイジナ モノヲ アヅカラウ
[#ここで字下げ終わり]
 と言ひ出し、鬼たち互ひにひそひそ小声で相談し合ひ、どうもあの頬ぺたの瘤はてかてか光つて、なみなみならぬ宝物のやうに見えるではないか、あれをあづかつて置いたら、きつとまたやつて来るに違
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