籠を背負ひ、雪の上に俯伏したまま、お婆さんは冷たくなつてゐた。葛籠が重くて起き上れず、そのまま凍死したものと見える。さうして、葛籠の中には、燦然たる金貨が一ぱいつまつてゐたといふ。
 この金貨のおかげかどうか、お爺さんは、のち間もなく仕官して、やがて一国の宰相の地位にまで昇つたといふ。世人はこれを、雀大臣と呼んで、この出世も、かれの往年の雀に対する愛情の結実であるといふ工合ひに取沙汰したが、しかし、お爺さんは、そのやうなお世辞を聞く度毎に、幽かに苦笑して、「いや、女房のおかげです。あれには、苦労をかけました。」と言つたさうだ。



底本:「太宰治全集第七巻」筑摩書房
   1990(平成2)年6月27日初版第1刷発行
入力:八巻美惠
校正:高橋じゅんや
2000年1月13日公開
2004年2月23日修正
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