の理を知りつくした魂なら、
死してあの世の謎も解けたであろうか。
今おのが身にいて何もわからないお前に、
あした身をはなれて何がわかろうか?

  (6)[#「(6)」は縦中横]

いつまで水の上に瓦《かわら》を積んで*おれようや!
仏教徒や拝火教徒の説にはもう飽《あ》きはてた。
またの世に地獄があるなどと言うのは誰か?
誰か地獄から帰って来たとでも言うのか?

  7

創世の神秘は君もわれも知らない。
その謎は君やわれには解けない。
何を言い合おうと幕の外のこと、
その幕がおりたらわれらは形もない。

  8

この万象《ばんしょう》の海ほど不思議なものはない、
誰ひとりそのみなもとをつきとめた人はない。
あてずっぽうにめいめい勝手なことは言ったが、
真相を明らかにすることは誰にも出来ない。

  9

このたかどのを宿とするかの天体の群
こそは博士らの心になやみのたね
だが、心して見ればそれほどの天体でさえ
揺られてはしきりに頭を振る身の上。

  10[#「10」は縦中横]

われらが来たり行ったりするこの世の中、
それはおしまいもなし、はじめもなかった。
答えようとて誰にはっきり答えられよう――
 われらはどこから来てどこへ行くやら?

  11[#「11」は縦中横]

造物主が万物の形をつくり出したそのとき、
なぜとじこめたのであろう、滅亡と不足の中に?
せっかく美しい形をこわすのがわからない、
もしまた美しくなかったらそれは誰の罪?

  12[#「12」は縦中横]

苦心して学徳をつみかさねた人たちは
「世の燈明*」と仰がれて光りかがやきながら、
闇《やみ》の夜にぼそぼそお伽《とぎ》ばなしをしたばかりで、
夜も明けやらぬに早《は》や燃えつきてしまった。

  (13)[#「(13)」は縦中横]

この道を歩んで行った人たちは、ねえ酒姫《サーキイ》*、
もうあの誇らしい地のふところに臥《ふ》したよ。
酒をのんで、おれの言うことをききたまえ――
 あの人たちの言ったことはただの風だよ。

  (14)[#「(14)」は縦中横]

愚かしい者ども知恵《ちえ》の結晶をもとめては
大空のめぐる中でくさぐさの論を立てた。
だが、ついに宇宙の謎には達せず、
しばしたわごとしてやがてねむりこけた!

  15[#「15」は縦中横]

綺羅星《きらぼし》の空高くいる牛――金牛星、
地の底にはまた大地を担《にな》う牛*もいるし、
さあ、理性の目を開き二頭の牛の
上下にいる驢馬《ろば》の一群を見るがよい。
[#改丁]

[#ページの左右中央]
   生きのなやみ
[#改丁]

  16[#「16」は縦中横]

今日こそわが青春はめぐって来た!
酒をのもうよ、それがこの身の幸だ。
たとえ苦くても、君、とがめるな。
苦いのが道理、それが自分の命だ。

  17[#「17」は縦中横]

思いどおりになったなら来はしなかった。
思いどおりになるものなら誰《た》が行くものか?
この荒家《あばらや》に来ず、行かず、住まずだったら、
ああ、それこそどんなによかったろうか!

  18[#「18」は縦中横]

来ては行くだけでなんの甲斐《かい》があろう?
この玉の緒の切れ目はいったいどこであろう?
罪もなく輪廻《りんね》の環《わ》の中につながれ、
身を燃やして灰《はい》となる煙はどこであろう?

  19[#「19」は縦中横]

ああ、空《むな》しくも齢《よわい》をかさねたものよ、
いまに大空の利鎌《とがま》が首を掻《か》くよ。
いたましや、助けてくれ、この命を、
のぞみ一つかなわずに消えてしまうよ!

  (20)[#「(20)」は縦中横]

よい人と一生安らかにいたとて、
一生この世の栄耀《えよう》をつくしたとて、
所詮《しょせん》は旅出する身の上だもの、
すべて一場の夢さ、一生に何を見たとて。

  21[#「21」は縦中横]

歓楽もやがて思い出と消えようもの、
古き好《よしみ》をつなぐに足るのは生《き》の酒のみだよ。
酒の器にかけた手をしっかりと離すまい、
お前が消えたって盃《さかずき》だけは残るよ!

  22[#「22」は縦中横]

ああ、全く、休み場所でもあったらいいに、
この長旅に終点があったらいいに。
千万年をへたときに土の中から
草のように芽をふくのぞみがあったらいいに!

  23[#「23」は縦中横]

二つ戸口のこの宿にいることの効果《しるし》は
心の痛みと命へのあきらめのみだ。
生の息吹《いぶ》きを知らない者が羨《うらや》ましい。
母から生まれなかった者こそ幸福だ!

  (24)[#「(24)」は縦中横]

地を固め天のめぐりをはじめたお前は
なんという痛恨を哀れな胸にあたえたのか?
紅玉の唇《くちびる》や蘭麝《らん
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