来る。生を幸福にする要素は少くとも四つある。第一にそれは、我々の行動を支配する道徳的標準である。第二は家族、また姻戚との親善な関係といふ形式に於ける、多少とも満足な家庭生活である。第三は、国家に対して我々の存在を恥ぢず、我等をして善良の市民たらしむべき、何かの形式の仕事である。第四は或る程度の閑暇《ひま》と、我々を幸福にするやうにそれを利用することである。閑暇《ひま》を善用することに成功したからというて、以上の三つの事に於ける失敗を償ふというわけにはいかないが、相当な閑暇《ひま》とそれを善用することは、確かに幸福な生に対する寄与である。さらば、如何にしたらその閑暇《ひま》を巧みに利用することが出来ようか。それは第一に、一体自分は何を求めてゐるのか、それを明かに知り、それを手にしたら、確かにそれが我々を幸福にする何物かであることを確かめればよい、して、これぞ即ち楽しみの第一歩なのであると、斯ういふ風に彼は説いてゐるが、自分が何を求めてゐるのか皆目わからず、従つて、それを手に出来ないで悶《もが》いてゐる者は世間に沢山あるので、如何にも尤もと肯れることである。
書物こそは――彼は云つてゐる
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