身の家、招く人の数に準じて座敷幾つかを打ちぬきにし、緋毛氈に飾られた高座を正面に、紫の幔幕結いまわし、それへかけつらねたビラ幾十枚、それもこれも数の多いが自慢で、若い娘達の※[#「口+喜」、第3水準1−15−18]々という声、花も蕾のかれらにはいつも心長閑にして春のようなであろう。
秋のおさらいは昼よりも灯する頃より夜と共に興|闌《たけなわ》なるがつねだ。彼の銀燭に蝋燭の火ざし華やかに、番組も序の口を終ったほどから、聴衆も居ずまいを直して耳傾くれば、お師匠さんの身の入れ方も一倍深くなって、三味線の音色撥さばき諸共に冴え、人々の心次第に誘われてゆく。
弾き語りもすんで、立唄、立三味線、高座にずらりと並居てのおさらいは、その日の呼び物だけにグッと景気づき、後見にまわったお師匠さんの気の張りも強くなる。
こうして一わたりすむと中入りには菓弁寿の御馳走、娘達はお世辞の言いくらやら、申訳のしあいやらで、小鳥の百々囀《さえず》り、良時はただ喧ましく賑わしく、さて再び柝を入れると俄に鎮まりかえって満場ただ水を打ったよう……と見るもほんの一[#(ト)]時すぐに又どこやらでヒソヒソ話が始まって、そ
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