自分の愛している人のところへ立ち帰るものです。
 吝嗇《りんしょく》な人間が生前に隠して置いた財物《ざいもつ》の附近に、夜中徘徊するというのもやはりこのわけです。この人たちは自分の黄金《こがね》に対して厳重な見張りをしているのです。死人として、しなくともいいことをして自分で自分を苦しめ、かえって自分の不利益になってしまうのです。
 幽霊のすがたになって、地のなかに埋めた金などを掘っているのは珍らしいことではありません。それと同じように、さきに死んでしまった夫が、あとに生き残って他人と結婚した妻を悩ましに来たりすることがあります。私は生きていた時よりも、死んでからいっそう自分の妻を監視している大勢の人の名前までも知っています。
 こんなことはいけないことです。正しい意味からいえば、死人が嫉妬をいだくなどは謂《いわ》れのないことです。私自身が見たことについてお話をすることもできますが、男が未亡人と結婚しても同じようなことになるのです。しかし、今お話をしたカトリーヌの一件は、次のように伝えられています。
 その不思議なことのあった翌朝、カトリーヌ・フォンテーヌは、自分の部屋で死んでいました。
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