姿が泛んでいた。
当時彼女はよく、祖母の銭勘定を嗤《わら》ったり罵ったりしたが、今はその姿を想い出すと眼頭へ涙が滲んで来た。
然し先刻のあの僧侶が、祖母の為に永遠に経を読む等という真ッ赤な嘘を、公然とお互に通してゆく世の中を考えると、彼女は擽《くすぐ》られるような気持ちにもなった。
寺の石段の上からは、直ぐ下に暮の街が展開された。薄い夕靄の中に電燈の火が鏤《ちりば》められていた。
彼女は石段を下り切ると、一度寺の方を振り仰いで見た。厳めしい楼門は貧弱な寄進者なんか眼中にも置かないように、そそり立っていた。
底本:「日本プロレタリア文学全集・21『婦人作家集(一)』」新日本出版社
1987(昭和62)年9月30日初版
1989(平成元)年5月15日第3刷
底本の親本:「文芸戦線」1927年1月号
入力:林幸雄
校正:大野裕
2001年2月2日公開
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