《よりまさ》はその後《のち》ずっと天子《てんし》さまに仕《つか》えて、度々《たびたび》の戦《いくさ》にいろいろ手柄《てがら》をたてました。けれどどういうものか、あまり位《くらい》が進《すす》まないで、いつまでもただの近衛《このえ》の武士《ぶし》で、昇殿《しょうでん》といって、御殿《ごてん》の上に上《のぼ》ることを許《ゆる》されませんでした。それである時《とき》、
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「人《ひと》知《し》れぬ
大内山《おおうちやま》の
山守《やまも》りは
木《こ》がくれてのみ
月を見《み》るかな。」
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という歌《うた》を詠《よ》みました。そしてせっかく御所《ごしょ》に仕《つか》えながら低《ひく》い位《くらい》に埋《うず》もれていて、人にもしられずにいる山守《やまも》りが高《たか》い山の上の月をわずかに木《こ》の間《ま》から隙《す》き見《み》するように、天子《てんし》さまの御殿《ごてん》を仰《あお》いでばかり見《み》ているという意味《いみ》を歌《うた》いました。天子《てんし》さまはその歌《うた》をおよみになって、かわいそうにお思《おも》いになり、頼政《よりまさ》を四位《しい》の位《くらい》にして、御殿《ごてん》に上《のぼ》ることをお許《ゆる》しになりました。
それからまた長《なが》い間《あいだ》、四位《しい》の位《くらい》のまますてて置《お》かれていたので、こんどは、
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「上《のぼ》るべき
たよりなければ
木《こ》のもとに
しいを拾《ひろ》いて
世《よ》を渡《わた》るかな。」
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とうたったので、とうとうまた一つ位《くらい》がのぼって三位《さんみ》になり、源三位頼政《げんざんみのよりまさ》と呼《よ》ばれることになりました。
底本:「日本の英雄伝説」講談社学術文庫、講談社
1983(昭和58)年6月10日第1刷発行
入力:鈴木厚司
校正:大久保ゆう
2003年9月29日作成
青空文庫作成ファイル:
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