はいるようにしていました。どうもなかなかおもしろい喜劇で、いい気ばらしになりました。そのうち、人形の女王さまは立ち上がって、ゆかの上をそろそろあるきだしました。そのときまあ、れいのブルドッグが、いったい、なんとおもったのでしょうか、それをまた主人がおさえもしなかったものですから、いきなり、舞台にとびだして来て、おやというまもなく、女王さまのかぼそい腰をぱっくりかみました。とたん、「がりッがりッ」という音がきこえました。いやはや、おそろしいことでした。
かわいそうに、人形つかいの男はすっかりしょげて、女王さまの人形をかかえて、おろおろしていました。それは一座のなかでも、いちばんきりょうよしの人形でしたのに、にくにくしいブルドッグのために、あたまをかみきられてしまったのですからね。けれども、みんな見物が散ってしまったあと、ヨハンネスといっしょにみに来ていた旅なかまが、こんども、そのきずをなおしてやろうといいだしました。そこで、れいの小箱をあけて、おばあさんのくじいた足を立たせてやったあのこうやくを、人形にぬってやりました。人形は、こうやくをぬってもらうと、さっそくきずがきれいになおって、おまけに、じぶんで手足までたっしやにうごかせるようになりました。もう糸であやつることもいらなくなりました。人形はまるで、生きた人のようでした。ただ口がきけないだけです。人形芝居の親方は、どんなによろこんだでしょう。人形つかいがつかわないでも、この人形は勝手にじぶんでおどれるのです。これは、ほかの人形にまねのならないことでした。
夜中《よなか》になって、宿屋にいた人たちがのこらず寝しずまろうというとき、どこかでしくしくすすり泣く声がして、いつまでもやまないものですから、みんな気にして起きあがって、いったい、たれが泣いているのか見ようとしました。それがどうも人形芝居の舞台のほうらしいので、親方がすぐ行ってみますと、でくのぼうは、王さまはじめのこらずの近衛兵《このえへい》がかさなりあって、そこにころがっていました。いまし方かなしそうにしくしくやっていたのは、このガラス目だまをきょとんとさせている人形なかまであったのです。それは、女王さまとおなじように、ちよっぴり、こうやくをぬってもらって、じぶんで勝手にうごけるようになりたいというのです。すると、女王さまもそばで、べったりひざをついて、その
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