わりきっと子供《こども》を頼《たの》みますよ。」
 といって、お百姓《ひゃくしょう》はさっそくくすのきをくりぬいて、舟《ふね》をこしらえ、その中に水《みず》をいっぱいためて、ささの葉《は》を浮《う》かべました。雷《かみなり》はその舟《ふね》に乗《の》って、またすうっと空《そら》の上へ上《あ》がって行《い》ってしまいました。

     二

 それから三月《みつき》ほどたつと、おじいさんのおかみさんが急《きゅう》におなかが大きくなりました。そして間《ま》もなく男の赤《あか》んぼが生《う》まれました。
 その赤《あか》んぼは生《う》まれた時《とき》から、ふしぎな子で、きれいな錦《にしき》の小蛇《こへび》が首《くび》のまわりに二巻《ふたま》き巻《ま》きついていました。そしてその頭《あたま》としっぽの先《さき》は長《なが》く伸《の》びて、赤《あか》んぼの背中《せなか》でつながっていました。
「さては雷《かみなり》が、約束《やくそく》のとおり子供《こども》をよこしてくれた。」
 とお百姓《ひゃくしょう》はいって、夫婦《ふうふ》して大事《だいじ》に育《そだ》てました。
 この子が十三になった時《とき》、お百姓《ひゃくしょう》は学問《がくもん》を仕込《しこ》んでもらおうと思《おも》って、元興寺《がんこうじ》の和尚《おしょう》さんのお弟子《でし》にしました。
 するとこの子は学問《がくもん》よりも大《たい》そう力《ちから》が強《つよ》くって、お弟子《でし》に入《はい》ったあくる日、自分《じぶん》の体《からだ》の三|倍《ばい》もあるような大きな石をかかえてほうり出《だ》しますと、三|尺《じゃく》も地《じ》びたがめり込《こ》んだので、和尚《おしょう》さんはびっくりして、この子はただものでないと思《おも》いました。
 そのころこの元興寺《がんこうじ》の鐘撞堂《かねつきどう》に毎晩《まいばん》鬼《おに》が出て、鐘《かね》つきの小僧《こぞう》をつかまえて食《た》べるというので、夜《よる》になると、だれもこわがって鐘《かね》をつきに行くものがありません。それで長《なが》い間《あいだ》元興寺《がんこうじ》の鐘《かね》の音《おと》が絶《た》えていました。雷《かみなり》の子供《こども》はその話《はなし》を聞《き》いて、
「和尚《おしょう》さん、わたしを鐘《かね》つきにやって下《くだ》さい。」
 といいました。和尚《おしょう》さんは大《たい》そうよろこんで、出《だ》してやりました。するとその晩《ばん》子供《こども》が、一人《ひとり》鐘撞堂《かねつきどう》に上《あ》がって鐘《かね》をつこうとしますと、どこからか鬼《おに》が出て来《き》て、うしろから頭《あたま》をつかまえました。子供《こども》は、
「うるさい、何《なに》をするのだ。」
 といったまま、かまわず撞木《しゅもく》に手をかけますと、その手をまた鬼《おに》がつかみました。子供《こども》はおこって、あべこべに鬼《おに》の頭《あたま》をつかみました。そしていきなり鬼《おに》の首《くび》を引《ひ》き抜《ぬ》こうとしました。鬼《おに》はびっくりして、「これは驚《おどろ》いた、とんでもないやつが出てきた。」と思《おも》って、逃《に》げ出《だ》そうとしました。けれど子供《こども》はしっかり鬼《おに》の頭《あたま》をつかまえていて放《はな》しません。鬼《おに》は苦《くる》しまぎれに子供《こども》の髪《かみ》の毛《け》をつかんで、負《ま》けずにこれも首《くび》を引《ひ》き抜《ぬ》こうと骨《ほね》を折《お》りました。どちらも負《ま》けず劣《おと》らぬえらい力《ちから》でしたから、えいやえいや、両方《りょうほう》で頭《あたま》の引《ひ》っ張《ぱ》りこをしているうちに、夜《よ》が明《あ》けかかって、鶏《にわとり》が鳴《な》きました。すると、鬼《おに》はびっくりして、あわてて頭《あたま》の皮《かわ》をそっくり子供《こども》の手《て》に残《のこ》したまま、にげて行ってしまいました。
 夜《よ》がすっかり明《あ》けはなれると、みんなが心配《しんぱい》して見《み》に来《き》ました。そして子供《こども》がとくいらしく、髪《かみ》の毛《け》のついた鬼《おに》の頭《あたま》の皮《かわ》を振《ふ》り回《まわ》すのを見《み》て、ますますびっくりしました。
 鬼《おに》というのは、昔《むかし》このお寺《てら》で悪《わる》いことをして殺《ころ》された坊《ぼう》さんが、お墓《はか》の中から毎晩《まいばん》出て来《く》るのでした。しかしこのことがあってから、二|度《ど》と鬼《おに》の姿《すがた》を見《み》ることがなくなりました。そして鬼《おに》の残《のこ》して行った頭《あたま》の皮《かわ》は、元興寺《がんこうじ》の宝物《たからもの》として残《のこ》った
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