いそうじょう》が首をふって、このきれいな森のむすめはきっと魔女で、王さまの目をくらまし、心を迷わせているにちがいないとささやきました。
けれども王さまはそのことばには耳をかしませんでした。もうすぐにおいわいの音楽をはじめよとおいいつけになりました。第一等のりっぱなお料理をこしらえさせて、よりぬきのきれいなむすめたちに踊らせました。そうして、エリーザは、香りの高い花園をぬけて、きらびやかな広間に案内されました。けれどもそのくちびるにも その目にも、ほほえみのかげもありませんでした。ただそこには、まるでかなしみの涙ばかりが、世世にうけついで来たままこりかたまって、いつまでもながくはなれないとでもいうようでした。そのとき王さまは、エリーザを休ませるためことに用意させた、そばのちいさいへやの戸を開きました。このへやは、高価なみどり色のかべかけでかざってあって、しかも今までエリーザのいたほら穴とそっくりおなじような作りでした。ゆかの上にはイラクサから紡《つむ》い麻束《あさたば》がおいてありました。天井《てんじょう》にはしあげのすんだくさりかたびらがぶらさがっていました。これはみんな、武士のひと
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