なって明かすのだからね。まったくこの岩でもなかったら、ぼくたちは、好きなふるさとへかえることができないだろう。なにしろ、そこまでいくのは一年のなかでもいちばん長い日を、二日分とばなければならないのだからね。一年にたったいっぺん、ふるさとの国をたずねることがゆるされている。そうして、十一日のあいだここにとどまっていて、この大きな森のうえをとびまわる。まあ、この森のうえから、ぼくたちのうまれたおとうさまの御殿もみえるし、おかあさまのうめられていらっしゃるお寺の塔もみえるというわけさ。――だからこのあたりのものは、やぶでも木立《こだち》でも、ぼくたちの親類のようにおもわれる。ここでは野馬がこどものじぶんみたとおり草原をはしりまわっている。炭焼までが、ぼくたちがむかし、そのふしにあわせておどったとおりの歌をいまでもうたう。ここにぼくたちのうまれた国があるのだ。どうしてもここへぼくたちは心がひかれるのだ。そうしてここへ来たおかげで、とうとう、かわいいいもうとのおまえをみつけたのだ。もう二日、ぼくたちはここにいることができる。それからまた海をわたってむこうのうつくしい国へいかなければならない。けれ
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