から、龍王《りゅうおう》は残念《ざんねん》がって、
「ではつまらない物《もの》でございますが、これをお礼《れい》のおしるしにお持《も》ち帰《かえ》り下《くだ》さいまし。」
 といいました。そして家来《けらい》にいいつけて、奥《おく》から米《こめ》一|俵《ぴょう》と、絹《きぬ》一|疋《ぴき》と、釣《つ》り鐘《がね》を一つ出《だ》させて、それを藤太《とうだ》に贈《おく》りました。そしてこの土産《みやげ》の品《しな》を家来《けらい》に担《かつ》がせて、龍王《りゅうおう》は瀬田《せた》の橋《はし》の下まで見送《みおく》って行きました。
 藤太《とうだ》が龍王《りゅうおう》からもらった品《しな》は、どれもこれも不思議《ふしぎ》なものばかりでした。米俵《こめだわら》はいくらお米《こめ》を出《だ》してもあとからあとからふえて、空《から》になることがありませんでした。絹《きぬ》はいくら裁《た》っても裁《た》っても減《へ》りません。釣《つ》り鐘《がね》はたたくと近江《おうみ》の国中《くにじゅう》に聞《き》こえるほどの高《たか》い音《おと》をたてました。藤太《とうだ》は釣《つ》り鐘《がね》を三井寺《みいで
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