とから、ついて行きました。
 山を下《お》りてしばらく行《い》くと、こんどは森《もり》の中にはいりました。すると木の上から、「キャッ、キャッ。」とさけびながら、猿《さる》が一ぴき、かけ下《お》りて来《き》ました。
 桃太郎《ももたろう》がふり返《かえ》ると、猿《さる》はていねいに、おじぎをして、
「桃太郎《ももたろう》さん、桃太郎《ももたろう》さん、どちらへおいでになります。」
 とたずねました。
「鬼《おに》が島《しま》へ鬼《おに》せいばつに行くのだ。」
「お腰《こし》に下《さ》げたものは、何《なん》でございます。」
「日本《にっぽん》一のきびだんごさ。」
「一つ下《くだ》さい、お供《とも》しましょう。」
「よし、よし、やるから、ついて来《こ》い。」
 猿《さる》もきびだんごを一つもらって、あとからついて行きました。
 山を下《お》りて、森《もり》をぬけて、こんどはひろい野原《のはら》へ出ました。すると空《そら》の上で、「ケン、ケン。」と鳴《な》く声《こえ》がして、きじが一|羽《わ》とんで来《き》ました。
 桃太郎《ももたろう》がふり返《かえ》ると、きじはていねいに、おじぎをして、
「桃太郎《ももたろう》さん、桃太郎《ももたろう》さん、どちらへおいでになります。」
 とたずねました。
「鬼《おに》が島《しま》へ鬼《おに》せいばつに行くのだ。」
「お腰《こし》に下《さ》げたものは、何《なん》でございます。」
「日本一《にっぽんいち》のきびだんごさ。」
「一つ下《くだ》さい、お供《とも》しましょう。」
「よし、よし、やるから、ついて来《こ》い。」
 きじもきびだんごを一つもらって、桃太郎《ももたろう》のあとからついて行きました。
 犬《いぬ》と、猿《さる》と、きじと、これで三にんまで、いい家来《けらい》ができたので、桃太郎《ももたろう》はいよいよ勇《いさ》み立《た》って、またずんずん進《すす》んで行きますと、やがてひろい海《うみ》ばたに出ました。
 そこには、ちょうどいいぐあいに、船《ふね》が一そうつないでありました。
 桃太郎《ももたろう》と、三にんの家来《けらい》は、さっそく、この船《ふね》に乗《の》り込《こ》みました。
「わたくしは、漕《こ》ぎ手《て》になりましょう。」
 こう言《い》って、犬《いぬ》は船《ふね》をこぎ出《だ》しました。
「わたくしは、かじ取《と》りになりましょう。」
 こう言《い》って、猿《さる》がかじに座《すわ》りました。
「わたくしは物見《ものみ》をつとめましょう。」
 こう言《い》って、きじがへさきに立《た》ちました。
 うららかないいお天気《てんき》で、まっ青《さお》な海《うみ》の上には、波《なみ》一つ立《た》ちませんでした。稲妻《いなづま》が走《はし》るようだといおうか、矢《や》を射《い》るようだといおうか、目のまわるような速《はや》さで船《ふね》は走って行きました。ほんの一|時間《じかん》も走《はし》ったと思《おも》うころ、へさきに立《た》って向《む》こうをながめていたきじが、「あれ、あれ、島《しま》が。」とさけびながら、ぱたぱたと高《たか》い羽音《はおと》をさせて、空《そら》にとび上《あ》がったと思《おも》うと、スウッとまっすぐに風《かぜ》を切《き》って、飛《と》んでいきました。
 桃太郎《ももたろう》もすぐきじの立《た》ったあとから向《む》こうを見《み》ますと、なるほど、遠《とお》い遠《とお》い海《うみ》のはてに、ぼんやり雲《くも》のような薄《うす》ぐろいものが見《み》えました。船《ふね》の進《すす》むにしたがって、雲《くも》のように見《み》えていたものが、だんだんはっきりと島《しま》の形《かたち》になって、あらわれてきました。
「ああ、見《み》える、見《み》える、鬼《おに》が島《しま》が見《み》える。」
 桃太郎《ももたろう》がこういうと、犬《いぬ》も、猿《さる》も、声《こえ》をそろえて、「万歳《ばんざい》、万歳《ばんざい》。」とさけびました。
 見《み》る見《み》る鬼《おに》が島《しま》が近《ちか》くなって、もう硬《かた》い岩《いわ》で畳《たた》んだ鬼《おに》のお城《しろ》が見《み》えました。いかめしいくろがねの門《もん》の前《まえ》に見《み》はりをしている鬼《おに》の兵隊《へいたい》のすがたも見《み》えました。
そのお城《しろ》のいちばん高《たか》い屋根《やね》の上に、きじがとまって、こちらを見《み》ていました。
こうして何年《なんねん》も、何年《なんねん》もこいで行《い》かなければならないという鬼《おに》が島《しま》へ、ほんの目をつぶっている間《ま》に来《き》たのです。

     四

 桃太郎《ももたろう》は、犬《いぬ》と猿《さる》をしたがえて、船《ふね》からひらりと陸《おか》
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