》りになりましょう。」
 こう言《い》って、猿《さる》がかじに座《すわ》りました。
「わたくしは物見《ものみ》をつとめましょう。」
 こう言《い》って、きじがへさきに立《た》ちました。
 うららかないいお天気《てんき》で、まっ青《さお》な海《うみ》の上には、波《なみ》一つ立《た》ちませんでした。稲妻《いなづま》が走《はし》るようだといおうか、矢《や》を射《い》るようだといおうか、目のまわるような速《はや》さで船《ふね》は走って行きました。ほんの一|時間《じかん》も走《はし》ったと思《おも》うころ、へさきに立《た》って向《む》こうをながめていたきじが、「あれ、あれ、島《しま》が。」とさけびながら、ぱたぱたと高《たか》い羽音《はおと》をさせて、空《そら》にとび上《あ》がったと思《おも》うと、スウッとまっすぐに風《かぜ》を切《き》って、飛《と》んでいきました。
 桃太郎《ももたろう》もすぐきじの立《た》ったあとから向《む》こうを見《み》ますと、なるほど、遠《とお》い遠《とお》い海《うみ》のはてに、ぼんやり雲《くも》のような薄《うす》ぐろいものが見《み》えました。船《ふね》の進《すす》むにしたがって、雲《くも》のように見《み》えていたものが、だんだんはっきりと島《しま》の形《かたち》になって、あらわれてきました。
「ああ、見《み》える、見《み》える、鬼《おに》が島《しま》が見《み》える。」
 桃太郎《ももたろう》がこういうと、犬《いぬ》も、猿《さる》も、声《こえ》をそろえて、「万歳《ばんざい》、万歳《ばんざい》。」とさけびました。
 見《み》る見《み》る鬼《おに》が島《しま》が近《ちか》くなって、もう硬《かた》い岩《いわ》で畳《たた》んだ鬼《おに》のお城《しろ》が見《み》えました。いかめしいくろがねの門《もん》の前《まえ》に見《み》はりをしている鬼《おに》の兵隊《へいたい》のすがたも見《み》えました。
そのお城《しろ》のいちばん高《たか》い屋根《やね》の上に、きじがとまって、こちらを見《み》ていました。
こうして何年《なんねん》も、何年《なんねん》もこいで行《い》かなければならないという鬼《おに》が島《しま》へ、ほんの目をつぶっている間《ま》に来《き》たのです。

     四

 桃太郎《ももたろう》は、犬《いぬ》と猿《さる》をしたがえて、船《ふね》からひらりと陸《おか》
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