のこ》らず打《う》ち従《したが》えて、こんどこそほんとうに総追捕使《そうついほし》になってしまいました。
 すると為朝《ためとも》に打《う》ち従《したが》えられた大名《だいみょう》たちは、うわべは降参《こうさん》した体《てい》に見《み》せかけながら、腹《はら》の中ではくやしくってくやしくってなりませんでした。そこでそっと都《みやこ》に使《つか》いを立《た》てて、為朝《ためとも》が九州《きゅうしゅう》に来《き》てさんざん乱暴《らんぼう》を働《はたら》いたこと、天子《てんし》さまのお許《ゆる》しも受《う》けないで、自分勝手《じぶんかって》に九州《きゅうしゅう》の総追捕使《そうついほし》になったことなどをくわしく手紙《てがみ》に書《か》き、その上に為朝《ためとも》の悪口《わるくち》を有《あ》ること無《な》いことたくさんにならべて、どうか一|日《にち》も早《はや》く為朝《ためとも》をつかまえて、九州《きゅうしゅう》の人民《じんみん》の難儀《なんぎ》をお救《すく》い下《くだ》さいと申《もう》し上《あ》げました。
 天子《てんし》さまはたいそうお驚《おどろ》きになって、さっそく役人《やくにん》をやって為朝《ためとも》をお呼《よ》び返《かえ》しになりました。けれども為朝《ためとも》は、
「きっとこれはだれかが天子《てんし》さまに讒言《ざんげん》したにちがいない。天子《てんし》さまには、間違《まちが》いだからといって、よく申《もう》し上《あ》げてくれ。」
 といって、役人《やくにん》を追《お》い返《かえ》してしまいました。
 為朝《ためとも》がいうことをきかないので、天子《てんし》さまはお怒《おこ》りになって、子供《こども》の悪《わる》いのは親《おや》のせいだからというので、おとうさんの為義《ためよし》を免職《めんしょく》して、隠居《いんきょ》させておしまいになりました。
 為朝《ためとも》は、おとうさんが自分《じぶん》の代《か》わりに罰《ばつ》を受《う》けたということを聞《き》きますと、はじめてびっくりしました。
「おれは天子《てんし》さまのお罰《ばつ》をうけることをこわがって、都《みやこ》へ行かないのではない。それを自分《じぶん》が行かないために、年《とし》を取《と》られたおとうさんがおとがめをうけるというのはお気《き》の毒《どく》なことだ。そういうわけなら一|日《にち》も早《
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