「やはり、短《みじか》い名前《なまえ》の子は運《うん》が悪《わる》いというのは、ほんとうだ。」と思《おも》っていました。
 それから二三|日《にち》たって後《のち》、子供《こども》たちはまた裏《うら》で遊《あそ》んでいました。
 ちょんさんの弟《おとうと》は、「ちょんさんの落《お》ちたのは名前《なまえ》が短《みじか》くって、運《うん》が悪《わる》いからだ。おれなんかどんなことをしたって落《お》ちやしない。」といばりかえって、わざと井戸側《いどがわ》にぶら下《さ》がったり、つるべを引《ひ》っぱったりしているうちに、はずみでぽかんと井戸《いど》の中へ落《お》ちてしまいました。大ぜいのお友達《ともだち》はびっくりして、ちょんさんのうちへ駆《か》けつけて、
「大へんです。今《いま》、ちょうにん、ちょうにん、ちょうじゅうろう、まんまる入道《にゅうどう》、ひら入道《にゅうどう》、せいたか入道《にゅうどう》、へいがのこ、いっちょうぎりの、ちょうぎりの、ちょうのちょうのちょうぎりの、あの山の、この山の、そのまた向《む》こうのあの山|越《こ》えて、この山|越《こ》えて、桜《さくら》が咲《さ》いて、お山のからすが団子《だんご》ほしいとないた、ではない、花《はな》より団子《だんご》でお茶《ちゃ》上《あ》がれ、お茶《ちゃ》がすんだら三|遍《べん》回《まわ》って煙草《たばこ》に庄助《しょうすけ》さんが、井戸《いど》にはまりました。」
 と知《し》らせました。
「それは大《たい》へんだ。」
 とみんなで駆《か》けつけるうちに、あんまり手間《てま》がとれたので、長《なが》い名《な》の庄助《しょうすけ》さんは、とうとう水《みず》に溺《おぼ》れて死《し》にました。



底本:「日本の諸国物語」講談社学術文庫、講談社
   1983(昭和58)年4月10日第1刷発行
入力:鈴木厚司
校正:大久保ゆう
2003年8月2日作成
青空文庫作成ファイル:
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