みることになるまでには、まる五年も待たなければなりません。でも、ひとりがいけば、ほかのひとたちに、はじめていった日みたこと、そのなかでいちばんうつくしいとおもったことを、かえって来て話す約束ができました。なぜなら、おばあさまのお話だけでは、どうも物たりなくて、ひいさまたちの知りたいとおもうことが、だんだんおおくなって来ましたからね。
そのなかでも、いちばん下のひいさまは、あいにく、いちばんながく待たなくてはならないし、ものしずかな、かんがえぶかい子でしたから、それだけたれよりもふかくこのことをおもいつづけました。いく晩もいく晩も、ひいさまは、あいている窓ぎわに、じっと立ったまま、くらいあい色した水のなかで、おさかながひれやしっぽをうごかして、およぎまわっているのをすかしてみていました。お月さまと星もみえました。それはごくよわく光っているだけでしたが、でも水をすかしてみるので、おかでわたしたちの目にみえるよりは、ずっと大きくみえました。ときおり、なにかまっ黒な影のようなものが、光をさえぎりました。それが、くじらがあたまの上をおよいでとおるのか、またはおおぜい人をのせた船の影だということは、ひいさまにもわかっていました。この船の人たちも、はるか海の底に人魚のひいさまがいて、その白い手を、船のほうへさしのべていようとは、さすがにおもいもつかなかったでしょう。
さて、いちばん上のひいさまも、十五になりました。いよいよ、海の上に出られることになりました。
このおねえさまがかえって来ると、山ほどもおみやげの話がありましたが、でも、なかでいちばんよかったのは、波のしずかな遠浅《とおあさ》の海に横になりながら、すぐそばの海ぞいの大きな町をみていたことであったといいます。そこでは、町のあかりが、なん百とない星の光のようにかがやいていましたし、音楽もきこえるし、車や人の通るとよめきも耳にはいりました。お寺のまるい塔と、とがった塔のならんでいるのが見えたし、そこから、鐘の音もきこえて来ました。でも、そこへ上がっていくことはできませんから、ただなにくれと、そういうものへのあこがれで、胸をいっぱいにしてかえって来たということでした。
まあ、いちばん下のひいさまは、この話をどんなに夢中できいたことでしょう。それからというもの、あいた窓ぎわに立って、くらい色の水をすかして上を仰ぐたんびに
前へ
次へ
全31ページ中4ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
楠山 正雄 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング