星をふたつならべたようでしたが、おちつきも休みもない目でした。女は、カイのいる窓のほうに、うなずきながら、手まねぎしました。カイはびっくりして、いすからとびおりてしまいました。すぐそのあとで、大きな鳥が、窓の外をとんだような、けはいがしました。
そのあくる日は、からりとした、霜日《しもび》よりでした。――それからは、日にまし、雪どけのようきになって、とうとう春が、やってきました。お日さまはあたたかに、照《て》りかがやいて、緑《みどり》がもえだし、つばめは巣をつくりはじめました。あのむかいあわせの屋根うらべやの窓も、また、あけひろげられて、カイとゲルダとは、アパートのてっぺんの屋根上の雨《あま》どいの、ちいさな花ぞので、ことしもあそびました。
この夏は、じつにみごとに、ばらの花がさきました。女の子のゲルダは、ばらのことのうたわれている、さんび歌をしっていました。そして、ばらの花というと、ゲルダはすぐ、じぶんの花ぞののばらのことをかんがえました。ゲルダは、そのさんび歌を、カイにうたってきかせますと、カイもいっしょにうたいました。
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「ばらのはな さきてはちりぬ
おさなごエス やがてあおがん」
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ふたりのこどもは、手をとりあって、ばらの花にほおずりして、神さまの、みひかりのかがやく、お日さまをながめて、おさなごエスが、そこに、おいでになるかのように、うたいかけました。なんという、楽しい夏の日だったでしょう。いきいきと、いつまでもさくことをやめないようにみえる、ばらの花のにおいと、葉のみどりにつつまれた、この屋根の上は、なんていいところでしたろう。
カイとゲルダは、ならんで掛けて、けものや鳥のかいてある、絵本をみていました。ちょうどそのとき――お寺の、大きな塔《とう》の上で、とけいが、五つうちましたが――カイは、ふと、
「あッ、なにかちくりとむねにささったよ。それから、目にもなにかとびこんだようだ。」と、いいました。
あわてて、カイのくびを、ゲルダがかかえると、男の子は目をぱちぱちやりました。でも、目のなかにはなにもみえませんでした。
「じゃあ、とれてしまったのだろう。」と、カイはいいましたが、それは、とれたのではありませんでした。カイの目にはいったのは、れいの鏡から、とびちったかけらでした。そら、おぼえているで
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