焔よりもあつくもえ、その男のやくような目つきは、やがて、女のからだをやきつくして灰にする焔などよりも、もっとはげしく、女の心の中で、もえていたのです。心の焔は、火あぶりのたきぎのなかで、もえつきるものでしょうか。」
「なんのことだか、まるでわからないわ。」と、ゲルダがこたえました。
「わたしの話はそれだけさ。」と、おにゆりはいいました。
 ひるがおは、どんなお話をしたでしょう。
「せまい山道のむこうに、昔のさむらいのお城がぼんやりみえます。くずれかかった、赤い石がきのうえには、つたがふかくおいしげって、ろだいのほうへ、ひと葉ひと葉、はいあがっています。ろだいの上には、うつくしいおとめが、らんかんによりかかって、おうらいをみおろしています。どんなばらの花でも、そのおとめほど、みずみずとは枝にさきだしません。どんなりんごの花でも、こんなにかるがるとしたふうに、木から風がはこんでくることはありません。まあ、おとめのうつくしい絹の着物のさらさらなること。
 あの人はまだこないのかしら。」
「あの人というのは、カイちゃんのことなの。」と、ゲルダがたずねました。
「わたしは、ただ、わたしのお話をしただけ。わたしの夢をね。」と、ひるがおはこたえました。
 かわいい、まつゆきそうは、どんなお話をしたでしょう。
「木と木のあいだに、つなでつるした長い板がさがっています。ぶらんこなの。雪のように白い着物を着て、ぼうしには、ながい、緑色の絹のリボンをまいた、ふたりのかわいらしい女の子が、それにのってゆられています。この女の子たちよりも、大きい男きょうだいが、そのぶらんこに立ってのっています。男の子は、かた手にちいさなお皿をもってるし、かた手には土製のパイプをにぎっているので、からだをささえるために、つなにうでをまきつけています。男の子はシャボンだまをふいているのです。ぶらんこがゆれて、シャボンだまは、いろんなうつくしい色にかわりながらとんで行きます。いちばんおしまいのシャボンだまは、風にゆられながら、まだパイプのところについています。ぶらんこはとぶようにゆれています。あら、シャボンだまのように身のかるい黒犬があと足で立って、のせてもらおうとしています。ぶらんこはゆれる、黒犬はひっくりかえって、ほえているわ。からかわれて、おこっているのね。シャボンだまははじけます。――ゆれるぶらんこ。われ
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