う。」
と、こうおもって、ついと横道から、その中へかけだしてはいって、森の中のいろいろの花をさがしました。そうして、ひとつ花をつむと、その先に、もっときれいなのがあるんじゃないか、という気がして、そのほうへかけて行きました。そうして、だんだん森のおくへおくへと、さそわれて行きました。
 ところが、このあいだに、すきをねらって、おおかみは、すたこらすたこら、おばあさんのおうちへかけていきました。そして、とんとん、戸をたたきました。
「おや、どなた。」
「赤ずきんちゃんよ。お菓子とぶどう酒を、おみまいにもって来たのよ。あけてちょうだい。」
「とっ手をおしておくれ。おばあさんはご病気でよわっていて、おきられないのだよ。」
 おおかみは、とっ手をおしました。戸は、ぼんとあきました。おおかみはすぐとはいっていって、なんにもいわずに、いきなりおばあさんのねているところへ行って、あんぐりひと口に、おばあさんをのみこみました。それから、おばあさんの着物を着て、おばあさんのずきんをかぶって、おばあさんのお床《とこ》にごろりと寝て、カーテンを引いておきました。

 赤ずきんちゃんは、でも、お花をあつめるのにむちゅうで、森じゅうかけまわっていました。そうして、もうあつめるだけあつめて、このうえ持ちきれないほどになったとき、おばあさんのことをおもいだして、またいつもの道にもどりました。おばあさんのうちへ来てみると、戸があいたままになっているので、へんだとおもいながら、中へはいりました。すると、なにかが、いつもとかわってみえたので、
「へんだわ、どうしたのでしょう。きょうはなんだか胸がわくわくして、きみのわるいこと。おばあさんのところへくれば、いつだってたのしいのに。」と、おもいながら、大きな声で、
「おはようございます。」
と、よんでみました。でも、おへんじはありませんでした。
 そこで、お床《とこ》のところへいって、カーテンをあけてみました。すると、そこにおばあさんは、横になっていましたが、ずきんをすっぽり目までさげて、なんだかいつもとようすがかわっていました。
「あら、おばあさん、なんて大きなお耳。」
「おまえの声が、よくきこえるようにさ。」
「あら、おばあさん、なんて大きなおめめ。」
「おまえのいるのが、よくみえるようにさ。」
「あら、おばあさん、なんて大きなおてて。」
「おまえが、
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