レンが右の方へ行こうとすると、くつは左の方へ踊り出しました。段段《だんだん》をのぼって、げんかんへ上がろうとすると、くつはあべこべに段段をおりて、下のほうへ踊り出し、それから往来に来て、町の門から外へ出てしまいました。そのあいだ、カレンは踊りつづけずにはいられませんでした。そして踊りながら、暗い森のなかへずんずんはいっていきました。
すると、上の木立《こだち》のあいだに、なにか光ったものが見えたので、カレンはそれをお月さまではないかとおもいました。けれども、それは赤いひげをはやしたれいの老兵で、うなずきながら、
「はて、ずいぶんきれいなダンスぐつですわい。」と、いいました。
そこでカレンはびっくりして、赤いくつをぬぎすてようとおもいました。けれどもくつはしっかりとカレンの足にくっついていました。カレンはくつ下を引きちぎりました。しかし、それでもくつはぴったりと、足にくっついていました。そしてカレンは踊りました。畑の上だろうが、原っぱの中だろうが、雨が降ろうが、日が照ろうが、よるといわず、ひるといわず、いやでもおうでも、踊って踊って踊りつづけなければなりませんでした。けれども、よるなどは、ずいぶん、こわい思いをしました。
カレンはがらんとした墓地《ぼち》のなかへ、踊りながらはいっていきました。そこでは死んだ人は踊りませんでした。なにかもっとおもしろいことを、死んだ人たちは知っていたのです。カレンは、にがよもぎが生えている、貧乏人のお墓《はか》に、腰をかけようとしました。けれどカレンは、おちつくこともできなければ、休むこともできませんでした。そしてカレンは、戸のあいているお寺の入口のほうへと踊りながらいったとき、ひとりの天使がそこに立っているのをみました。その天使は白い長い着物を着て、肩から足までもとどくつばさをはやしていて、顔付きはまじめに、いかめしく、手にははばの広いぴかぴか光る剣を持っていました。
「いつまでも、お前は踊らなくてはならぬ。」と、天使はいいました。「赤いくつをはいて、踊っておれ。お前が青じろくなって冷たくなるまで、お前のからだがしなびきって、骸骨《がいこつ》になってしまうまで踊っておれ。お前はこうまんな、いばったこどもらが住んでいる家を一|軒《けん》、一軒と踊りまわらねばならん。それはこどもらがお前の居ることを知って、きみわるがるように、お前は
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