像《ぞう》が、かたそうなカラーをつけて、長い黒い着物を着たむかしの坊さんや、坊さんの奥さんたちの像までも、じっと目をすえて、カレンの赤いくつを見つめているような気がしました。それからカレンは、坊さんがカレンのあたまの上に手をのせて、神聖な洗礼のことや、神さまとひとつになること、これからは一人前のキリスト信者として身をたもたなければならないことなどを、話してきかせても、自分のくつのことばかり考えていました。やがて、オルガンがおごそかに鳴って、こどもたちは、わかいうつくしい声で、さんび歌をうたいました。唱歌組をさしずする年とった人も、いっしょにうたいました。けれどもカレンは、やはりじぶんの赤いくつのことばかり考えていました。
おひるすぎになって、お年よりの奥さまは、カレンのはいていたくつが赤かった話を、ほうぼうでききました。そこで、そんなことをするのはいやなことで、れいぎにそむいたことだ。これからお寺へいくときは、古くとも、かならず黒いくつをはいていかなくてはならない、と申しわたしました。
その次の日曜は、堅信礼のあと、はじめての聖餐式《せいさんしき》のある日でした。カレンははじめ黒いくつを見て、それから赤いくつを見ました。――さて、もういちど赤いくつを見なおした上、とうとうそれをはいてしまいました。その日はうららかに晴れていました。カレンとお年よりの奥さまとは、麦畑のなかの小道を通っていきました。そこはかなりほこりっぽい道でした。
お寺の戸口のところに、めずらしいながいひげをはやした年よりの兵隊が、松葉杖《まつばづえ》にすがって立っていました。そのひげは白いというより赤いほうで、この老兵はほとんど、あたまが地面につかないばかりにおじぎをして、お年よりの奥さまに、どうぞくつのほこりを払わせて下さいとたのみました。そしてカレンも、やはりおなじに、じぶんのちいさい足をさし出しました。
「はて、ずいぶんきれいなダンスぐつですわい。踊るとき、ぴったりと足についていますように。」と、老兵はいって、カレンのくつの底を、手でぴたぴたたたきました。
奥さまは、老兵にお金を恵んで、カレンをつれて、お寺のなかへはいってしまいました。
お寺のなかでは、たれもかれもいっせいに、カレンの赤いくつに目をつけました。そこにならんだのこらずの像も、みんなその赤いくつを見ました。カレンは聖壇《
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