》の神《かみ》に向《む》かって、
「いつぞや約束《やくそく》したとおり、わたしは少女《おとめ》をお嫁《よめ》にもらって、子供《こども》まで出来《でき》ました。だから約束《やくそく》のとおり、あなたの着物《きもの》をぬいで下《くだ》さい。それからごちそうをたんとして下《くだ》さい。」
といいました。
けれども兄神《あにがみ》は弟神《おとうとがみ》の幸福《こうふく》をねたましく思《おも》って、さもいまいましそうに、
「そんな約束《やくそく》はした覚《おぼ》えがないよ。」
といって、まるで着物《きもの》もくれないし、ごちそうもしませんでした。
弟神《おとうとがみ》はくやしがって、おかあさんの女神《めがみ》の所《ところ》へ行《い》っていいつけました。すると女神《めがみ》はおおこりになって、兄神《あにがみ》に、
「あなたはなぜうそをつくのです。神《かみ》のくせにいやしい人間《にんげん》のするようなうそをつくというのは何事《なにごと》です。」
としかりました。
それでも兄神《あにがみ》はやはり約束《やくそく》を果《は》たそうとしませんでした。すると女神《めがみ》は出石川《いずしがわ》の中の島《しま》に生《は》えていた青竹《あおだけ》を切《き》って来《き》て、目の荒《あら》いかごをこしらえました。そしてその中へ、川の石に塩《しお》をふりかけて、それを竹《たけ》の葉《は》に包《つつ》んだものを入《い》れて、
「この兄神《あにがみ》のようなうそつきは、この竹《たけ》の葉《は》が青《あお》くなって、やがてしおれるように、青《あお》くなって、しおれてしまえ。この塩《しお》が干《ひ》からびるように干《ひ》からびてしまえ。そしてこの石が沈《しず》むように沈《しず》んでしまえ。」
とのろって、そのかごをかまどの上にのせておきました。
すると兄神《あにがみ》はそのたたりで、それから八|年《ねん》の間《あいだ》干《ひ》からびて、しおれて、病《や》み疲《つか》れて、さんざん苦《くる》しい目にあいました。それですっかり弱《よわ》りきって、泣《な》き泣《な》きおかあさんの女神《めがみ》におわびをしました。
そこでやっと女神《めがみ》がのろいをといておやりになりますと、兄神《あにがみ》はまたもとのとおりの丈夫《じょうぶ》な体《からだ》にかえりました。
底本:「日本の諸国物語」講談社学術文庫、講談社
1983(昭和58)年4月10日第1刷発行
入力:鈴木厚司
校正:佳代子
2004年2月19日作成
青空文庫作成ファイル:
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