みつめていました。そしてあたりは、まったくおそろしいほど、しいんとしていました。
 そのとき、きゅうにまどのとこから、この上もないかわいらしいうたが、きこえてきました。それは、まどのそとの枝にとまった、あの小さな、ほんもののさよなきどりがうたったものでした。さよなきどりは、皇帝がご病気だときいて、なぐさめてあげるために、げんきをつけてあげるために、歌をうたいに、やってきたのでした。さよなきどりが、うたうにつれて、あやしいまぼろしは、だんだん影がうすれて行きました。血は皇帝のおからだの中を、とっとっとまわりだしました。死神さえ、耳をとめて、そのうたをきいて、こういいました。
「もっとうたってくれ、さよなきどりや。もっとうたってくれ。」
「はい。そのかわり、あなたは、そのこがねづくりのけんをくれますか。そのりっぱなはたをくれますか。皇帝のかんむりをくださいますか。」
 そこで死神は、うたをひとつうたってもらうたんびに、かわりに、三つのたからを、ひとつずつやりました。
 さよなきどりは、ずんずんうたいつづけました。そして、まっしろなばらの花が咲いて、にわとこの花がにおい、青あおした草が、いき
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