をとびおきて、侍医《じい》をおめしになりました。でも、それがなんの役にたつでしょう。そこで時計屋《とけいや》をよびにやりました。で、時計屋がきて、あれかこれかと、わけをきいたり、しらべたりしたあげく、どうにか、さいくどりのこしょうだけは、なおりました。でも、時計屋は、なにしろ、かんじんな軸《じく》うけが、すっかりすりへっているのに、それをあたらしくとりかえて、音楽をもとどおりはっきりきかせるくふうがつかないから、せいぜい、たいせつにあつかっていただく[#「いただく」は底本では「いたただく」]ほかはないと、いいました。これはまことにかなしいことでした。もう一年にたったいちどだけ、うたわせることになったのですが、それさえ、おおすぎるというのです。でもそのとき、楽師長は、れいの小むずかしいことばばかりならべた、みじかいえんぜつをして、なにも、これまでとかわったところはないと、いいましたが、なるほど、歌は、これまでとかわったところは、ありませんでした。
 さて、それから五年たちましたが、こんどこそはほんとうに、国じゅうの大きなかなしみがやってきました。じんみんたちが、こころからしたっていた皇帝
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