、人さしゆびをたかくさし上げて、うなずきました。けれども、ほんもののさよなきどりをきいたことのある、れいのびんぼう漁師《りょうし》は、
「なかなかいいこえでうたうし、ふしもにているが、どうも、なんだかものたりないな。」といいました。
 ほんもののさよなきどりは、都の土地からも、国からもおわれてしまいました。
 さいくどりは、皇帝のお寝台《ねだい》ちかく、絹《きぬ》のふとんの上に、すわることにきまりました。この鳥に贈られて来た黄金と宝石が、のこらず、鳥のまわりにならべ立てられました。鳥は、「帝室御夜詰歌手長《ていしつおんよづめかしゅちょう》」の栄職《えいしょく》をたまわり、左側第一位《ひだりがわだいいちい》の高位にものぼりました。たいせつなしんぞうが、このがわにあるというので、皇帝は、左《ひだり》がわをことにおもんぜられました。するとしんぞうは、皇帝でもやはり左がわにあるとみえますね。それから、れいの楽師長は、さいくどりについて、二十五巻もある本をかきました。さて、この本は、ずいぶん学者ぶってもいて、それに、とてもしちむずかしい漢語《かんご》がいっぱい、つかってありました。そのくせたれも
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