ぎょえん》にはまた、およそめずらしい、かわり種の花ばかりさいていました。なかでもうつくしい花には、そばをとおるものが、いやでもそれにきのつくように、りりりといいね[#「ね」に傍点]になるぎんのすずがつけてありました。ほんとうに、皇帝の御苑は、なにからなにまでじょうずにくふうがこらしてあって、それに、はてしなくひろいので、おかかえの庭作《にわづくり》でも、いったいどこがさかいなのか、よくはわからないくらいでした。なんでもかまわずどこまでもあるいて行くと、りっぱな林にでました。そこはたかい木立《こだち》があって、そのむこうに、ふかいみずうみをたたえていました。林をではずれるとすぐ水で、そこまで木《き》のえだがのびているみぎわちかく、帆《ほ》をかけたまま、大きなふねをこぎよせることもできました。
 さて、この林のなかに、うつくしいこえでうたう、一|羽《わ》のさよなきどりがすんでいましたが、そのなきごえがいかにもいいので、日びのいとなみにおわれているまずしい漁師《りょうし》ですらも、晩、網《あみ》をあげにでていって、ふと、このことりのうたが耳にはいると、ついたちどまって、ききほれてしまいました
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