そうに笑《わら》いました。そうして、大きな歯《は》をむき出《だ》したまま、
「ふ、ふ、ふ、お前《まえ》、いくら名人《めいじん》でも、大工《だいく》にゃあこの橋《はし》はかからないぞ。」
 といいました。
「じゃあ、だれならかかる。」
「そりゃあこのおれならかかるよ。」
「じゃあ頼《たの》む、お前《まえ》さん後生《ごしょう》だ、代《か》わりにかけておくれ。」
「そりゃあかけてやってもいいが、何《なに》をお礼《れい》にくれる。」
「そりゃあかけてくれればなんでも上《あ》げるよ。」
「じゃあお前《まえ》、その目玉《めだま》をよこせ。」
「なに、目玉《めだま》だ。」
 大工《だいく》もこれには少《すこ》し驚《おどろ》きましたが、なにその時《とき》はその時《とき》でどうにかなるだろうと思《おも》って、
「よし、よし、お安《やす》い御用《ごよう》だ。」
 といって、承知《しょうち》してしまいました。

     二

 大工《だいく》はそれなりうちへ帰《かえ》って、ゆっくり一寝入《ひとねい》りして、あくる日また、何気《なにげ》なしに川へ出てみました。すると、川の水《みず》は一向《いっこう》引《ひ》いていませんが、まさかと思《おも》っていた橋《はし》が、半分《はんぶん》以上《いじょう》も、みごとにその上にかかっているので、びっくりしました。
「こりゃあじょうだんじゃあないぞ。」
 大工《だいく》は急《きゅう》にこわくなって、そっと両方《りょうほう》の目をおさえました。
 そこでその明《あ》くる日は、朝早《あさはや》くから起《お》きて、また川へ出てみますと、まあどうでしょう、じつにりっぱな橋《はし》が、何丈《なんじょう》という高《たか》さに、水《みず》が渦巻《うずま》き逆巻《さかま》き流《なが》れている大川《おおかわ》の上に、もうすっかり出来上《できあ》がって、びくともしずに、長々《ながなが》とかかっているではありませんか。大工《だいく》はこんどこそほんとうに度肝《どぎも》を抜《ぬ》かれて、ただもう目ばかりきょろきょろさせていました。
 すると、そのとたん、れいのどことも知《し》れない川のそこから、
「おい、どうした、大工《だいく》。さあ、目玉《めだま》をよこせ。」
 といいながら、鬼《おに》が出て来《き》たので、「ひゃあ。」と一声《ひとこえ》、すっかり青《あお》くなって、ぶるぶる
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