な》をつがせてやりたいと思《おも》っておりました。そういうことでしたら、このとおりの腕白者《わんぱくもの》でございますが、どうぞよろしくお願《ねが》い申《もう》します。」
 とさもうれしそうに言《い》いました。
 金太郎《きんたろう》はそばで二人《ふたり》の話《はなし》を聞《き》いて、
「うれしいな、うれしいな。おれはお侍《さむらい》になるのだ。」
 と言《い》って、小踊《こおど》りをしていました。
 金太郎《きんたろう》がいよいよ碓井貞光《うすいのさだみつ》に連《つ》れられて都《みやこ》へ上《のぼ》るということを聞《き》いて、熊《くま》も鹿《しか》も猿《さる》もうさぎもみんな連《つ》れ立《だ》ってお別《わか》れを言《い》いに来《き》ました。金太郎《きんたろう》はみんなの頭《あたま》を代《か》わりばんこになでてやって、
「みんな仲《なか》よく遊《あそ》んでおくれ。」
 と言《い》いました。みんなは、
「金太郎《きんたろう》さんがいなくなってさびしいなあ。早《はや》くえらい大将《たいしょう》になって、また顔《かお》を見《み》せて下《くだ》さい。」
 と言《い》って、名残《なごり》惜《お》しそうに帰《かえ》っていきました。金太郎《きんたろう》はおかあさんの前《まえ》に手《て》をついて、
「おかあさん、では行ってまいります。」
 と言《い》いました。そして、貞光《さだみつ》のあとについて、とくいらしく出ていきました。
 それから幾日《いくにち》も幾日《いくにち》もかかって、貞光《さだみつ》は金太郎《きんたろう》を連《つ》れて都《みやこ》へ帰《かえ》りました。そして頼光《らいこう》のおやしきへ行って、
「足柄山《あしがらやま》の奥《おく》で、こんな子供《こども》を見《み》つけてまいりました。」
 と、金太郎《きんたろう》を頼光《らいこう》のお目にかけました。
「ほう、これはめずらしい、強《つよ》そうな子供《こども》だ。」
 と頼光《らいこう》は言《い》いながら、金太郎《きんたろう》の頭《あたま》をさすりました。
「だが金太郎《きんたろう》という名《な》は侍《さむらい》にはおかしい。父親《ちちおや》が坂田《さかた》というのなら、今《いま》から坂田金時《さかたのきんとき》と名乗《なの》るがいい。」
 そこで金太郎《きんたろう》は坂田金時《さかたのきんとき》と名乗《なの》って、頼光《らいこう》の家来《けらい》になりました。そして大きくなると、えらいお侍《さむらい》になって、渡辺綱《わたなべのつな》、卜部季武《うらべのすえたけ》、碓井貞光《うすいのさだみつ》といっしょに、頼光《らいこう》の四|天王《てんのう》と呼《よ》ばれるようになりました。



底本:「日本の神話と十大昔話」講談社学術文庫、講談社
   1983(昭和58)年5月10日第1刷発行
   1992(平成4)年4月20日第14刷発行
入力:鈴木厚司
校正:大久保ゆう
2003年8月2日作成
青空文庫作成ファイル:
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