パリへ向けてたつこと、そして着いたらすぐにバルブレンを見つけて、せっかく少しでも早くわたしを見つけようとしている両親も喜《よろこ》ばせてやることを勧《すす》めた。わたしはかの女と五、六日ここに過《す》ごしたいと望《のぞ》んでいたが、でもかの女の言うことももっともだと思った。
わたしはしかし行くまえにリーズに会いに行かなければならない。それには運河《うんが》に沿《そ》って行ってパリへ行けるのだから、してできないことはなかった。リーズのおじさんは水門の番人をしていて、河岸《かし》の小屋に住んでいるのだから、そこへとまってかの女に会うことはできる。
わたしはその日一日バルブレンのおっかあとくらした。夕方わたしたちは、いまにわたしがお金持ちになったら、かの女になにをしてやろうかということを話し合った。かの女は欲《ほ》しい物をなんでも持たなければならない。わたしにお金ができれば、どんな望《のぞ》みだってかなえてやれないということはないであろう。
「でもおまえがびんぼうでいるあいだにくれた雌牛《めうし》は、お金持ちになったときくれられるどんな物よりもわたしにはずっとうれしいだろうよ」とかの女はほくほくしながら言った。
そのあくる日、好《す》きなバルブレンのおっかあに優《やさ》しいさようならを言ってから、わたしたちは運河《うんが》の岸についで歩き出した。
マチアはたいへん考えこんでいた。そのわけをわたしは知っていた。かれはわたしにお金持ちの両親ができることを悲しがっていた。それがわたしたちの友情《ゆうじょう》に変化《へんか》を起こすとでも思ったらしかった。わたしはかれに、そうなれば学校へ行って、いちばんえらい先生について音楽を勉強することができるのだからと言ったが、かれは悲しそうに頭をふった。わたしはかれが兄弟としていっしょのうちに住むようになること、わたしの両親もわたしの友だちのことだからそっくりわたし同様に愛《あい》してくれるだろうと思ったということを話したが、まだかれは首をふっていた。
しかしさしあたりわたしはまだそのお金持ちの両親の金を使うまでにならないので、通りすがりの村むらで、食べ物を買うお金を取らなければならなかった。それにリーズにおくり物を買ってやるお金も少しこしらえたかった。バルブレンのおっかあはあの雌牛《めうし》を、わたしがお金持ちになってからなにを
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