庭のまん中に集まった。マチアとわたしは荷馬車の中に陣取《じんど》った。
「きみはカドリールがひけるか」と心配してわたしはささやいた。
「ああ」
かれはヴァイオリンで二、三|節《せつ》調子を合わせた。運よくわたしはその節《ふし》を知っていた。わたしたちは助かった。マチアとわたしはまだいっしょにやったことはなかったが、まずくはやらなかった。もっともこの人たちはたいして音楽のいい悪いはかまわなかった。
「おまえたちのうち、コルネ(小ラッパ)のふける者があるかい」と赤い顔をした大男がたずねた。
「ぼくがやれます」とマチアは言った。「でも楽器《がっき》を持っていませんから」
「わしが行って探《さが》して来る。ヴァイオリンもいいが、きいきい言うからなあ」
わたしはその日一日で、マチアがなんでもやれることがわかった。わたしたちは休みなしに晩《ばん》までやった。それにはわたしは平気であったが、かわいそうにマチアはひどく弱っていた。だんだんわたしはかれが青くなって、たおれそうになるのを見た。でもかれはいっしょうけんめいふき続《つづ》けた。幸いにかれが気分が悪いことを見つけたのは、わたし一人ではなかった。花よめさんがやはりそれを見つけた。
「もうたくさんよ」とかの女は言った。「あの小さい子は、つかれきっていますわ。さあ、みんな楽師《がくし》たちにやるご祝儀《しゅうぎ》をね」
わたしはぼうしをカピに投げてやった。カピはそれを口で受け取った。
「どうかわたくしどもの召使《めしつか》いにお授《さず》けください」とわたしは言った。
かれらはかっさいした。そしてカピがおじぎをするふうを見て、うれしがっていた。かれらはたんまりくれた。花むこさまはいちばんおしまいに残《のこ》ったが、五フランの銀貨《ぎんか》をぼうしに落としてくれた。ぼうしは金貨でいっぱいになった。なんという幸せだ。
わたしたちは夕食に招待《しょうたい》された。そして物置《ものお》きの中でねむる場所をあたえてもらった。
あくる朝この親切な百姓家《ひゃくしょうや》を出るとき、わたしたちには二十八フランの資本《もとで》があった。
「マチア、これはきみのおかげだよ」とわたしは勘定《かんじょう》したあとで言った。「ぼく一人きりでは楽隊《がくたい》は務《つと》まらないからねえ」
二十八フランをかくしに入れて、わたしたちは福々であっ
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