》だわらか。」
 といって、つい捨《す》てようとしましたが、さっきの夢《ゆめ》に、「手にさわったものは何《なん》でもだいじに持《も》っておれ。」といわれたことを思《おも》い出《だ》して、これも観音《かんのん》さまのおさずけものかも知《し》れないと思《おも》って、手の中でおもちゃにしながら持《も》っていきました。

     二

 しばらく行くと、どこからかあぶが一|匹《ぴき》飛《と》んできて、ぶんぶんうるさく顔《かお》のまわりを飛《と》び回《まわ》りました。若者《わかもの》はそばにある木の枝《えだ》を折《お》って、はらいのけはらいのけして歩《ある》いていましたが、あぶはやはりどこまでもぶんぶん、ぶんぶん、うるさくつきまとってきました。若者《わかもの》はがまんができなくなって、とうとうあぶをつかまえて、さっきのわらでおなかをしばって、木の枝《えだ》の先《さき》へくくりつけて持《も》っていきました。あぶはもう逃《に》げることができなくなって、羽《はね》ばかりあいかわらずぶんぶんやっていました。
 すると向《む》こうから、身分《みぶん》のあるらしい様子《ようす》をした女の人が、牛車《うしぐ
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