すぐと庭へおりてみますと、どうして、たかいといって、豆の木は、それこそほうずのしれないたかさに、空の上までものびていました。つると葉とがからみあって、それは、空の中をどんとつきぬけて、まるで豆の木のはしごのように、しっかりと立っていました。
「あれをつたわって、てっぺんまでのぼって行ったら、ぜんたいどこまで行けるかしら。」
そうおもって、ジャックは、すぐとはしごをのぼりはじめました。だんだんのぼって行くうち、ジャックの家は、ずんずん、ずんずん、目の下でちいさくなって行きました。そしていつのまにかみえなくなってしまいました。それでもまだてっぺんには来ていませんでした。ジャックは、いったいどこまで行くのかとおもって、すこしきみがわるくなりました。それでもいっしょうけんめい、はしごにしがみついて、のぼって行きました。あんまりたかくのぼって、目はくらむし、手も足もくたびれきって、もうしびれて、ふらふらになりかけたころ、やっとてっぺんにのぼりつきました。
二
ジャックは、そのとき、まずそこらを見まわしました。すると、そこはふしぎな国で、青あおとしげった、しずかな森がありました。うつくしい花のさいている草原もありました。水晶《すいしょう》のようにきれいな水のながれている川もありました。こんなたかい空の上に、こんなきれいな国があろうとは、おもってもいませんでしたから、ジャックはあっけにとられて、ただきょとんとしていました。
いつもまにか、ふと、赤い角《かく》ずきんをかぶった、みょうな顔のおばあさんが、どこから出て来たか、ふと目の前にあらわれました。ジャックは、ふしぎそうに、このみょうな顔をしたおばあさんをみつめました。おばあさんは、でも、やさしい声でいいました。
「そんなにびっくりしないでもいいのだよ。わたしはいったい、お前さんたち一家《いっか》のものを守ってあげている妖女《ようじょ》なのだけれど、この五、六年のあいだというものは、わるい魔《ま》もののために、魔法《まほう》でしばられていて、お前さんたちをたすけてあげることができなかったのさ。だが、こんどやっと魔法がとけたから、これからはおもいのままに、助《たす》けてあげられるだろうよ。」
だしぬけに、こんなことをいわれて、ジャックは、なおさらあっけにとられてしまいました。そのぽかんとした顔を、妖女はおもしろそうにながめながら、そのわけをくわしく話しだしました。それをかいつまんでいうと、まあこんなものでした。
「ここからそうとおくはない所に、おそろしい鬼の大男が、すみかにしている、お城のような家がある。じつはその鬼が、むかし、そのお城に住んでいたお前のおとうさんをころして、城といっしょに、そのもっていたおたからのこらずとってしまったものだから、お前のうちは、すっかり貧乏《びんぼう》になってしまったのさ。そうしてお前も、赤ちゃんのときから、かわいそうに、お前のおかあさんのふところにだかれたまま、下界《げかい》におちぶれて、なさけないくらしをするようになったのだよ。だから、もういちど、そのたからをとりかえして、わるいその鬼を、ひどいめにあわしてやるのが、お前のやくめなのだよ。」
こういうふうにいいきかされると、ぐうたらなジャックのこころも、ぴんと張《は》ってきました。知らないおとうさんのことが、なつかしくなって、どうしてもこの鬼をこらしめて、かすめられたたからを、とりかえさなくてはならないとおもいました。そうおもって、とてもいさましい気になって、おなかのすいていることも、くたびれていることも、きれいにわすれてしまいました。そこで、妖女にお礼をいってわかれますと、さっそく、鬼の住んでいるお城にむかって、いそいで行きました。
やがて、お日さまが西にしずむころ、ジャックは、なるほどお城のように大きな家の前に来ました。
まず、とんとんと門をたたくと、なかから、目のひとつしかない、鬼のお上《かみ》さんが出て来ました。きみのわるい顔に似合《にあ》わず、鬼のお上さんは、ジャックのひもじそうなようすをみて、かわいそうにおもいました。それで、さもこまったように首をふって、
「いけない、いけない。きのどくだけれど、とめてあげることはできないよ。ここは、人くい鬼のうちだから、みつかると、晩のごはんのかわりに、すぐたべられてしまうからね。」といいました。
「どうか、おばさん、知れないようにしてとめてくださいよ。ぼく、もうくたびれて、ひと足もあるけないんです。」と、たのむように、ジャックはいいました。
「しかたのない子だね。じゃあ今夜だけとめてあげるから、朝になったら、すぐおかえりよ。」
こういっているさいちゅう、にわかにずしん、ずしん、地ひびきするほど大きな足音がきこえて来ました。
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