ごをつたわって来ます。ジャックは、気が気ではありません、身のかるいのをさいわいに、ハープをかかえたなり、はしごの途中《とちゅう》、つばめのようなはやわざで、くるりとひっくりかえって、たかい上からとびおりました。そこへおかあさんが、斧をもってかけつけたので、ジャックは斧をふるって、いきなり、はしごの根もとから、ぷっつり切りはなしました。そのとき、まだ、はしごの中ほどをおりかけていた大男が、切れた豆のつるをつかんだまま、大きなからだのおもみで、ずしんと、それこそ地びたが、めりこむような音を立てて、落ちてきました。そして、それなり、目をまわして死んでしまいました。
ちょうどそのとき、いつぞや、はじめてジャックにあって、道をおしえてくれた妖女が、こんどはまるでちがって、目のさめるように美しい女の人の姿になって、またそこへ出て来ました。きらびやかに品のいい貴婦人《きふじん》のような身なりをして、白い杖を手にもっていました。杖のあたまには、純金《じゅんきん》のくじゃくを、とまらせていました。そしてふしぎな豆が、ジャックの手にはいるようになったのも、ジャックをためすために、自分がはからってしたことだといって、
「あのとき、豆のはしごをみて、すぐとそのまま、どこまでものぼって行こうという気をおこしたのが、そもそもジャックの運のひらけるはじめだったのです。あれを、ただぼんやり、ふしぎだなあとおもってながめたなり、すぎてしまえば、とりかえっこした牝牛《めうし》は、よし手にもどることがあるにしても、あなたたちは、あいかわらず貧乏でくらさなければならない。だから、豆の木のはしごをのぼったのが、とりもなおさず、幸運のはしごをのぼったわけなのだよ。」
と、こう妖女は、いいきかせて、ジャックにも、ジャックのおかあさんにもわかれて、かえって行きました。
底本:「世界おとぎ文庫(イギリス・フランス童話篇)妖女のおくりもの」小峰書店
1950(昭和25)年5月1日発行
※「旧字、旧仮名で書かれた作品を、現代表記にあらためる際の作業指針」に基づいて、底本の表記をあらためました。
入力:大久保ゆう
校正:秋鹿
2006年1月21日作成
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